ルカによる福音書19章1~10 節 「ある金持ちの救い」
総合テーマ スチュワードシップ
今月は総合テーマとしてスチュワードシップについて御言葉から学んで参ります。
主題聖句はペトロの手紙一4章10節
「あなたがたはそれぞれ、賜物を授かっているのですから、神のさまざまな恵みの善い管理者として、その賜物を生かして互いに仕えなさい。」
・今月のみことばの学びの視点…その1
与えられている財産を何に一番用いるべきか?
・今月のみことばの学びの視点…その2
何に時間を費やすことが最も大切か?
黙想のポイント1
・18章18節から語られる金持ちの議員の場合と比較して、何が二人の決断に違いを生んだのか黙想しましょう。
黙想のポイント2
・18章の話しと合わせて、神に喜ばれる財産の用い方として忘れてはならないことは何だと聖書は語っているでしょうか。
◆徴税人ザアカイ
19:1 イエスはエリコに入り、町を通っておられた。
>>>主イエス一行はエルサレムに向けて旅をしている途中エリコという町を通りました。
19:2 そこにザアカイという人がいた。この人は徴税人の頭で、金持ちであった。
>>>前の章には同じく金持ちの議員が登場しました。同じ金持ちですが、この二人の対照的なこれまでの生き方や主イエスとの会話を通して選択したその後の人生の決断に注目していきたいと思います。
19:3 イエスがどんな人か見ようとしたが、背が低かったので、群衆に遮られて見ることができなかった。
>>>ザアカイは背が低かったことがわかります。そのため、主イエスが見えないのですが、彼はそんなことではあきる人ではありませんでした。彼はひょっとするとイエスの弟子に同じ徴税人中間のマタイが加わったことや、主イエスが徴税人たちと食事もしているといううわさを聞いて淡い期待を持っていたのかも知れません。
19:4 それで、イエスを見るために、走って先回りし、いちじく桑の木に登った。そこを通り過ぎようとしておられたからである。
>>>彼は先を読んで主イエスの先回りをしたことがわかります。小さな男がすたすたと大急ぎで先回りをするところを想像してみて下さい。そのような目的のためには頭を働かせ、精一杯の努力をするザアカイという人物の一面が見えてきます。このような一面が彼を徴税人の頭に就かせたのかもしれません。彼は自分の背丈のハンデを補うためにいちじく桑の木に登りました。人目を気にせずに彼はその木に登ったことでしょう。
19:5 イエスはその場所に来ると、上を見上げて言われた。「ザアカイ、急いで降りて来なさい。今日は、ぜひあなたの家に泊まりたい。」
>>>ところがザアカイが予想もしない事態が起こりました。主イエスは彼がよじ登った木の下まで来ると立ち止まり、彼を見上げたのです。そして驚いたことに降りて来るように促すだけでなく、すでに彼の名前も知っており、しかも彼の家に泊まらせてほしいと言い出したのです。どれだけ不意を突かれたことでしょうか。それにしてもなぜ「急いで降り」て来るように主イエスはザアカイを促したのでしょうか。私なら気を付けて降りて来なさいと言うかもしれません。そのあたりに主イエスがザアカイとどれだけ親密な時間を過ごしたいのかが伺えるような気がします。
19:6 ザアカイは急いで降りて来て、喜んでイエスを迎えた。
>>>ザアカイは主イエスの言葉に全面的に従い、急いで降りてきて、喜んで主イエスを彼の家へと迎えたことが語られています。この「喜んでイエスを迎えた」という言葉の中には、彼の内面的な決断も含まれているのかも知れません。つまり、この時からザアカイは主イエスに自分は今後従って行こうと心を入れ替え始めたということです。
19:7 これを見た人たちは皆つぶやいた。「あの人は罪深い男のところに行って宿をとった。」
>>>ここでこの出来事を回りの人々がどう受け止めたかが語られています。まず「つぶやいた」とあります。明らかに人々がこの主イエスの取った行動に賛成していないことが伺えます。主イエスの思いがけない行動に対して軽蔑の眼差しを向けるような言葉にさえ聞こえて来ます。彼らはザアカイを罪深い男と表現します。当時徴税人は盗賊や人殺しと同類に見られていたようです。また、会堂で礼拝することからも締め出されていたと言います。どれだけその職業が蔑まれていたかがわかります。そんな徴税人たちの頭のところに泊まるなど、彼らには考えも及ばないことだったに違いありません。この後群衆がどうしたのかも、主イエスとザアカイが家でどんな会話を交わしたのかも一切語られていません。次に語られるのはザアカイの決心でした。
19:8 しかし、ザアカイは立ち上がって、主に言った。「主よ、わたしは財産の半分を貧しい人々に施します。また、だれかから何かだまし取っていたら、それを四倍にして返します。」
>>>彼は主イエスに全面的に今後従っていくにあたり、自分の財産について大きな決断を下していました。彼がスチュワードシップ(神様から授かっている全てのものをどう御心に適うように管理するか)についての大切な決断をしたのです。そして、それは私たちがなかなかできない決断でした。なんと十分の一どころか、全財産の半分をまずは貧しい人々のために施すために用いることにしたのです。このことから彼が主イエスからどのような福音を受け取ったかがわかります。困っている隣人のために財産を用いることこそ神から人より多くの財産を託された者の使命だと分かったのです。18章に登場する議員は逆に主イエスから全財産を貧しい人々に施し(一旦すべてを神様のご用のために放棄し)て主イエスの弟子のひとりとして従うように招かれましたが、彼はそれに応じることができませんでした。しかし、ザアカイは自発的に自分の全財産の半分を貧しい人々に施すことが主イエスならびに神の御心に適うことを理解したのです。
また、次の彼の言葉は彼が過去の自分の罪を悔い改めたことを示しています。彼はこれまでかなり不正をして人々をだまして税金を取り立てていたことが分かります。その償いとして彼は4倍にして返すことを決断しています。これも先ほどの決断同様に律法で求められているよりも遙かに多い損害賠償額でした。自主的に賠償する場合には損害額の2割増しの賠償金を払うこと(レビ記6章5節、民数記5章7節)が律法に語られており、盗んだことが訴えられて有罪となった場合には2倍の賠償を(出エジプト記22章)することが求められていました。それを彼は敢えて4倍にして自発的に賠償すると決意したのです。貧しい人々に施す財産の半分を含めると、彼はほとんどの財産を手放す覚悟が必要な額だと考えられます。つまり彼は主イエスのために一度全財産を手放す覚悟をしているということではないかと思います。
>>>前の章の18章18節以降に大変な金持ちの議員が全財産を貧しい人々に分けてやってから主イエスに従いなさいと招かれた時に、その議員(おそらくファリサイ派の人)はそれができずに主イエスを後にして悲しみ落胆しながら帰って行ったことが語られていますが、これとは対照的なことがここで起こっているのです。彼には自分の財産を手放すことはできなかったのです。ここにザアカイとのその後の決定的な主イエスとの関わりが示されています。まさに「だれも神と冨の両方に仕えることはできない」や「先の者が後になり、後の者が先になる」という御言葉の通りです。
19:9 イエスは言われた。「今日、救いがこの家を訪れた。この人もアブラハムの子なのだから。
>>>主イエスはその時、ザアカイの救いを宣言しました。彼は永遠の命を手に入れることができたのです。アブラハムの子とは、信仰によって自分の人生(財産を含む)のすべてを主に委ねる決断と選択をした者を指すのではないかと考えられます。自分の財産のために主イエスに従うことを断念した金持ちの議員と自ら主イエスのために自分の全財産を放棄して従おうとするザアカイとの差が見えてきます。
19:10 人の子は、失われたものを捜して救うために来たのである。」
>>>人の子こと主イエスは、欲にまみれた自己中心的な罪深い生き方の中で神の御心を見失っている人々が罪を悔い改めて神に立ち返り、神の御心に従って生きるようになるために来られた救い主です。ザアカイのようにこのお方こそ自分の人生をかけるに値する救い主として受け入れ、すべてを主に委ねて従うのか、それとも議員のように自分が手に入れたものを神のために手放すことができず主イエスに完全に従うことを断念して生きるのか、そこには大きな違いがあります。もちろん実際には全財産をすぐに手放し、貧しい人に施す必要はありません。あなたがすでに持っているものが多ければ多いほど、隣人のために用いるだけの覚悟と信仰が問われているのです。そして人生をキリストに委ね、主イエスと共に大きな喜びを体験するのか、それともそのような主イエスとの関係を断念して主イエスから遠ざかってしまうのか、そんな人生の選択がこれらの箇所から問われもいるのではないでしょうか。あなたがまだ主イエスに自分の人生を完全に委ねておられないなら、今がその時です。
参考
◆金持ちの議員
18:18 ある議員がイエスに、「善い先生、何をすれば永遠の命を受け継ぐことができるでしょうか」と尋ねた。
18:19 イエスは言われた。「なぜ、わたしを『善い』と言うのか。神おひとりのほかに、善い者はだれもいない。
18:20 『姦淫するな、殺すな、盗むな、偽証するな、父母を敬え』という掟をあなたは知っているはずだ。」
18:21 すると議員は、「そういうことはみな、子供の時から守ってきました」と言った。
18:22 これを聞いて、イエスは言われた。「あなたに欠けているものがまだ一つある。持っている物をすべて売り払い、貧しい人々に分けてやりなさい。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」
18:23 しかし、その人はこれを聞いて非常に悲しんだ。大変な金持ちだったからである。