「イエス・キリストの系図」 マタイによる福音書1章1-17節
「5節⑩サルモンはラハブ(エリコの遊女)によってボアズを、⑪ボアズはルツ(モアブ人)によってオベドを、オベドはエッサイを、6節 ⑬エッサイはダビデ王をもうけた。⑭ダビデはウリヤの妻(バト・シェバ)によってソロモンをもうけ…」
今月より新約聖書の最初の書であるマタイ福音書に入ります。多くの人が新約聖書を開いて読むなり見慣れない系図に少なからず戸惑います。家系図は純潔を重んじ、また正当な家系であるかどうかを重んじるユダヤ人にとって極めて重要なものでした。その点ではイエス・キリストの系図はユダヤ人から見れば極めて興味を引くものでした。ひとつの理由にはその家系図にはイスラエル史上最も尊敬を集めたダビデ王が名を連ねていたことです。しかし、それよりも驚くべきことには通常家系図には載せるはずのないいわく付きの4人の妻の名前があることです。
3節に登場するタマルは十二部族長のひとりユダの長子エルの妻でしたが、事情によりタマルは夫の父ユダの子を身ごもります(創世記38章参照)。続く5節に登場するラハブはイスラエルの民が最初にカナンに攻め入った時のエリコの町の遊女でした(ヨシュア記2章~6章参照)。続くルツはイエス誕生の時代、結婚が禁止されているモアブ民族の女性でした(ルツ記参照)。そして極めて異例なのが6節に登場するダビデの妻であり、後継者ソロモン王の母の記載方法です。この女性バトシェバについては「ウリヤの妻」として名前すら載らずに赤裸々に他人の妻だった人物からソロモンが生まれたことを載せていることです。不倫の末に生まれたのがソロモンであり、その過程でダビデは消し去ることのできない大きな殺人という罪を犯しています。その過去の罪があえて分かるような形でイエス・キリストの系図は意図的に書かれているのが特徴です。
人類を罪とその呪いから救うためにこの世に遣わされた神のひとり子イエス・キリスト。この救い主はその時代の人々や未来の私たちのためだけでなく、過去の人々の罪も背負ってこの世に生まれて下さったことが表現されている系図なのです。新約聖書の最初にふさわしい出だしではないでしょうか。