斎藤 信一郎 牧師
<原則として、ご自分で聖書本文を読み、黙想してから以下の文章、聖書教育誌、その他の参考文献を読むことをお奨めします。また、黙想の際に聖書地図で確認し、違う聖書訳を比較して読むこともお奨めします。>※『聖書教育』誌は日本バプテスト連盟から発行されています。詳細は下記のURLでご照会下さい。 http://www.bapren.com/index.html (『聖書教育』ホームページ)
◆黙想のポイント
今回よりガラテヤの信徒への手紙に入ります。コリント、エペソ、フィリピの信徒への手紙のように、その都市名が書簡名となったのではありません。ガラテヤとは「ガラテヤ地方の諸教会」(2節参照)を意味します。従って、正確には「ガラテヤ地方の諸教会への手紙」と題名を付けた方が正確でしょう。ガラテヤ地方とは、地中海に面した、現在のトルコの中央付近の広大な地域を指します。地図でご確認下さい。パウロが手紙を書いた目的は、パウロたちの後から訪れたユダヤ人クリスチャンたちの影響で、当初伝えたものとは違う福音理解が広まっているという情報が届いたからでした。その後、中世において宗教改革の中心的役割を果たしたマルチン・ルターは本書簡を「わたしの妻」と表現し、その重要性を強調しました。現代においても個人、教会や教派によって様々な聖書理解、福音理解が存在します。果たしてどこまでが許容範囲で、どこからが異端だと線引きできるのでしょうか。そのような問いも大切にして読みたいパウロ書簡です。
◆挨拶
1:1 人々からでもなく、人を通してでもなく、イエス・キリストと、キリストを死者の中から復活させた父である神とによって使徒とされたパウロ、1:2 ならびに、わたしと一緒にいる兄弟一同から、ガラテヤ地方の諸教会へ。1:3 わたしたちの父である神と、主イエス・キリストの恵みと平和が、あなたがたにあるように。 1:4 キリストは、わたしたちの神であり父である方の御心に従い、この悪の世からわたしたちを救い出そうとして、御自身をわたしたちの罪のために献げてくださったのです。 1:5 わたしたちの神であり父である方に世々限りなく栄光がありますように、アーメン。
>>>パウロはこの書簡の出だしで、二つの重要な信仰理解を打ち出しています。ひとつは「キリストを死者の中から復活させた」(1節)、つまりキリストは復活したという信仰理解。そして「この悪の世から私たちを救い出そうとして、御自身をわたしたちの罪のために献げてくださった」(4節)、つまりキリストが私たちの罪をあがない、救うために死なれたという信仰理解です。罪のあがないと復活による救い、そこにパウロの信仰理解の中心が置かれていることが分かる出だしです。
◆ほかの福音はない
1:6 キリストの恵みへ招いてくださった方から、あなたがたがこんなにも早く離れて、ほかの福音に乗り換えようとしていることに、わたしはあきれ果てています。 1:7 ほかの福音といっても、もう一つ別の福音があるわけではなく、ある人々があなたがたを惑わし、キリストの福音を覆そうとしているにすぎないのです。1:8 しかし、たとえわたしたち自身であれ、天使であれ、わたしたちがあなたがたに告げ知らせたものに反する福音を告げ知らせようとするならば、呪われるがよい。1:9 わたしたちが前にも言っておいたように、今また、わたしは繰り返して言います。あなたがたが受けたものに反する福音を告げ知らせる者がいれば、呪われるがよい。
>>>6節の「わたしはあきれ果てています。」、そして私たちは避けたい言葉ですが、8と9節で用いられる「呪われるがよい。」という言葉から、パウロの無念さ、憤り、彼が感じ取っている問題の深刻さが伝わってきます。現代においても聖書理解、福音理解は個人、教会、教派間によってかなり幅があります。見解の違いによる論争、分裂、そして戦争さえも繰り返されて来たキリスト教界の苦い歴史があります。
1:10 こんなことを言って、今わたしは人に取り入ろうとしているのでしょうか。それとも、神に取り入ろうとしているのでしょうか。あるいは、何とかして人の気に入ろうとあくせくしているのでしょうか。もし、今なお人の気に入ろうとしているなら、わたしはキリストの僕ではありません。
>>>パウロは現代に生きる私たちに大切な問題提起をしています。妥協できない、見過ごしにはできない誤った信仰理解が存在し得るということ。そのような時には真剣にその問題と向き合わなければならないということ。そうだとするならば、信仰や聖書理解の違いはどこまで赦されるのか、どこからは赦されないのか。そして、そのような問題が起きた時、信徒、教会、あるいは教派はどのように対処したらいいのか。キリスト教界の長い歴史を見ても、これは簡単な問題ではないことが分かります。ガラテヤ書の学びを通してこの難問に共に向き合い、福音理解を深めて参りましょう。